幻想・川蜻蛉 第八話「続、釣神の眼」

Kawatombo Ken

2008年02月15日 01:56

今回のお話は、幻想・川蜻蛉 第弐話「釣神の眼」の続編です。
釣神の眼とは何なのか、少し説明しておきましょう

How to use EYE of FISHING GOD
1.不思議なお札『太公望の眼』、これに自分の名前を書いた者は、釣神の眼を得るこことが出来る。
2.このお札の効果を得られるのは一人だけである。
3.書かれた名前に×をつけると、新たに名前を書くことが出来る。
4.名前に×を付ける事が出来るのは、書かれた人物が死んだ場合、釣りを止めた場合、1年以上釣りをしなかった場合、釣神の眼を手放す意思を示した場合。これだけである。
5.前述の釣神の眼が移動する条件が整っても、次の名前が書かれるまでは釣神の眼は移動しない。
6.釣神の眼を得たものは、半径100m以内の全ての魚、または釣りの対象となる生物を見つけることが出来る。
7.警戒心が薄く食欲旺盛な「釣りやすい魚」は、青く見える。逆に「釣りにくい魚」は、赤く見える。
8.1匹の魚をジーッと見つめると、その魚を釣る方法が頭の中に浮かんでくる。
9.魚が見えて、釣る方法が判っても、それを実行する腕前が無ければ当然釣ることは出来ない。
10.ひょっとしたら、まだ他にも知られざる効力があるかもしれません・・・・
・・・
・・・
・・・


長いこと釣を趣味にしていると、時に不思議な人物と出会うことがある・・・

いやいや、今日も釣った釣った!!
なんと尺ヤマメだけで、ツ抜け達成、11匹♪
尺に満たない魚の匹数など、ここ最近数えようと思ったことすらない。その気になれば、もっと沢山釣ることも出来ただろうが、このくらいで止めて置くのも格好良いだろう。

鼻歌交じりに、釣り上がってきた川の側道を下っていると、
「やった~!!」
川のほうから大声が聞こえてきた、釣人のようだ。大物でも釣り上げたのかな?
そう思い川を覗き込んでみると、何だぁ!?15cm位のヤマメじゃないか。でもまぁ・・・初心者なんだろうな、うん、嬉しいよ確かにね。(いくら自分が大漁だったとは言え、人の釣果を馬鹿にするほど私は心の狭い人間ではない!)
「あれほど喜んでいるんだから、シャッターくらい押してやるかな?」
そう思い川に下ろうとした時、その釣人の顔に見覚えがあることに気がついた。

その人こそ、
「全ての魚が釣れるようになってしまうと、釣がつまらなくなるんだ・・・」
そう言って、私に『釣神の眼』を譲ってくれた、かつての釣の達人だった。その達人があんな小さな魚を釣って喜んでいる。
私は肩をすくめて
「ふ~ん、まぁ考え方は人それぞれだからね・・・良いんじゃない?」
正直理解できなかったが、おかげで私はこんな便利な目を受け継ぐことが出来たんだ。感謝こそあれ、否定するつもりは毛頭ない。

釣れ過ぎるとつまらない、これだけはチョット分かるかな?
確かに普通に釣りあがったのでは、今の私はその気になれば、川の魚全てを釣り尽くす事だって出来る。それでは面白くない、と言うかやりがいが無い。

最近の私の楽しみ方は、こうだ!
先行している釣人の痕跡を見つけて、わざと下流に入る。
その先行者に追いつき、すぐ後ろで釣りまくる、釣果を見せつけるのだ!!
嫌味だって?まぁそう言わないでくれよ。
大抵の釣人は、私の後ろからのプレッシャーに負けて、教えを請うてくる。そしたら「そこの魚は、こうしてああして・・・」と的確なアドバイスを親切丁寧にしてやるんだからさ♪
最後には皆感謝して、私に頭を下げて帰っていくんだ。こんなに気持ちの良い事はないだろ?

たまに、私のこの「親切」がカンに触ったらしい心の狭い奴が、勝負を挑んでくることもあるが、当然完膚なきまでに叩きのめして返り討ちにしてやる。これはこれでまた気分がいい♪

恐らく私に敵う者など、この世に一人としていないだろう!
この時までは、そう思っていたのだった・・・

とある春の日、いつものように先行している釣人の痕跡を見つけて入渓した。
30分ほどのんびりと川原の景色を楽しみながら遡上していくと、先行者に追いついた。
今日の相手はテンカラ師、かなりの年配だ。
竿さばき、身のこなし、なかなかの腕前と見たが・・・
「テンカラ師か、まぁまぁ上手そうだが、相手にとっては少々不足かな?」
達人レベルの餌釣師でもない限り、私の相手にはならないのだが、贅沢を言ってはきりが無い!

釣を開始し、早速すぐ後ろで良型のヤマメを掛けた。
わざとヤマメを少々暴れさせて、バシャバシャと派手に水音をたてて先行者に気付かせてやるのだ!!
ここで大抵先行者は振り返り、「何!?」と言う顔をして悔しがる・・・至福♪
「さぁジジイ、振り向け!」
しかし振り向かない・・・ん?先行の老釣師の竿も曲がっていた。そっちも結構な良型のようだ。
暫しのやり取りの末上がってきたのは、尺ヤマメ

私の釣ったヤマメより大きかった・・・
「・・・・ちっ!」と舌打ちすると、
ようやく老釣師はこちらを振り向き、ペコリと会釈をした。
そして、自分の釣った尺ヤマメと、私の釣ったヤマメを見比べて、ニヤリと笑った・・・・(ムカッ!)

良いだろう!ジジイ相手に本気を出すのもどうかと思っていたが、そっちがその気ならやってやろうじゃないか!!

再び老釣師が先行、私が後攻で釣りあがった。
先行とは言え老釣師は、次々魚を釣り上げる。当然私も負けてはいなかったが、サイズはことごとく老釣師より小さかった・・・(クソッ!!)
しかし今日の状況は相当良好のようだ。後攻であるにもかかわらず、警戒心の高い『赤い魚』には全くお目にかかっていない。先行なら尚更釣りやすいだろう・・・全く運の良いジジイだ!!
5匹目を同時に釣り上げた所で、老釣師が声を掛けてきた。
「なかなかの腕前じゃの、若いのに大したものだ」
(内心穏やかではなかったが、ここはあくまで冷静に)
「いやいや、そちらこそ相当な腕前じゃないですか!サイズでは完全に負けてますよ。」
「まぁ、先行させてもらってるしの、大した事は無いよ」
(フン、当然だ!!)
老釣師(Tさん)からの提案で、ここからは交代方式で釣り上がっていく事にした。私も随分舐められたものだ!
見てろよ、釣神の眼の真の力、思い知らせてやる!!

・・・何てことだ!
先行が私に代わったとたん、『赤い魚』が増えてきやがった。
良型の魚をじっと見つめても釣る方法が浮かんでこない。
仕方が無いか、釣れる魚を釣る事にしよう。まぁ私ですらこの状況だ、後攻のTさんにはもはや魚を釣る術は無いだろう。

来た来た♪
今まで釣れていた魚に比べると一回り小さいが、このポイントで「釣れる魚」の中では最大のはずだ。
「ほう、少々小さめだが、さすがさすが!」(ムカッ!言ってろジジイ、もうこのポイントに釣れる魚はいねぇよ!!)
「釣れればOKですよ、次のポイントに行きますよ。ここ、まだ2,3匹はいるかもしれないですよ!(嘘ではない)」
次のポイントでも良型は真っ赤だ・・・しょうがないなぁ。
釣れる『青い魚』を探していると、
バシャバシャ!後ろから大きな水音が!?
私が振り向くと、Tさんの竿にはまたも良型のイワナが掛かっていた。

まさか!?確かに先ほどのポイントには、良型のイワナは居た。しかし、釣れる気配など一欠けらも無かったはずだ・・・見落としたか?・・・まさか!釣神の眼は完璧なはず・・・
「魚の口元に偶然落ちたら、喰ってくれたよ。まぐれじゃよ、まぐれ♪」
まぐれ?・・・まさか?・・・確かに赤い警戒心の高い魚といえど、全く餌を食わない訳ではない。事実、私もほんの2,3回『赤い魚』を釣ったことはあるが・・・
ゴチャゴチャ考えていたせいか、魚のバイトを見逃してしまった!!
ついに数でもTさんに上を行かれてしまった、釣神の眼を手に入れて以来、初めての経験だ・・・

くそっ!そんなバカな・・・
「あ~、こりゃ合わせが遅すぎだ。惜しい惜しい!」
・・・くっ!!
ここで熱くなってはいけない、『釣神の眼』は絶対だ!何かこのジジイには秘密があるんだ。
「少し、頭を冷やさないとダメですね♪先に行って下さい」
釣り方を見極めてやる!!
「そうかい?悪いね、じゃあここからやらせてもらうわ」
ジーッとポイント見つめる。魚の数は3匹、最大魚28cm。色は全部『赤』。私が一度バラシたせいで、どんなに見つめても釣り方は浮かんでこない。
つまり、釣れる訳がない!!

Tさんが、逆さ毛鉤をポイントに打ち込む・・・その毛鉤は最大魚のいる巻き返しに自然に流れていく・・・
見事だ!!しかし、喰う気の無い魚は何を流しても釣れる訳が無いさ!
やはり、まぐれだったか?
Tさんの方を見ると・・・居ない!?いや竿はあるぞ、竿の根元には・・・居た。眼をゴシゴシ擦ってみた、やはり何かおかしい。
ポイントをもう一度見ると・・・!?
『青い魚』が3匹??何故?
Tさんが2度目のキャスト・・・また姿が消えた!!
毛鉤は・・・一度目より更にタイトに最大魚の近くを流れていく・・・喰った!
見事、ポイントから最大魚を引きずり出してしまった。
一体何が起こったというのだ!?

「おお、ラッキーだったよ。叩いた後でも、探ると出ることもあるんじゃよ」
そんな訳あるか、明らかに狙って釣っている。

次のポイント、私は少し離れて全体を見てみることにした。
『赤い魚』が1匹居るだけ。喰う気無し!
キャストの直前、またしてもTさんの姿は消える・・というか、岩や木に紛れてしまう・・・
一投目、魚の近くを流れる毛鉤、喰うわけが無い。
しかし、毛鉤が流れきった後、魚の色が赤から青へと変わっていくではないか!?(つまり、魚の警戒心が薄れていくと言うことだ)
二投目、青くなった魚は、迷うことなく毛鉤を咥える・・・ヒット!
Tさんの姿が現れ、手早く魚を引き寄せて、見事にキャッチ。

「何だ、これは・・・何が起きたんだ?」
目の前で起きたことが信じられずに、呆然としている私に
「赤い魚が釣れるのが、不思議か?」
「えっ、どういうことですか?」
「釣れない筈の赤い魚が、青く変わって釣れるのが、不思議だろ?と聞いてるんだ」
「まさか、Tさんも釣神の眼を・・・」
「いや持ってない、存在を知っているだけだ。
だが、やはりそうか・・・最近少々天狗になっている若い釣師の噂を聞いて、懲らしめてやろうと思って来てみたが、まさか釣神の眼の持ち主だったとはな!どうりで手強い訳だ!!」

手強い?その程度か?釣神の眼を持つ釣人は、どう考えたって最強じゃないか!!
「まだ納得行かないようだな、教えてやろうか、なぜお前がワシに敵わなかったか」
コクリと頷く私に、Tさんは語り始めた・・・

「釣神の眼と言えど、それは魚の姿を『見る』だけだ!
聞け!川のせせらぎを、木々のざわめきを。
感じろ!風と水の流れを、温度を。
嗅げ!川の、風の、草の匂いを。
見るのではない!
五感全てを駆使して、自然の流れを身体全体で感じ取れ!
さすれば、釣神の眼など無くても魚の姿は見える!!」

「そしてどんなに魚を見つめても、『一投で』その魚を釣る方法が判るだけだ!
分かるか?詰め将棋と同じだ。
一手では詰まない王将も、三手なら、五手なら詰める手筋があるものだ。
周りと同化して、気配を消して、わざと魚が喰わない場所に毛鉤を流す。」

「魚は警戒心が薄れて、次に流す時には釣れる可能性が高まる・・・」

「そうだ!だからワシは最初から、二投目か三投目で釣るつもりで組み立てていた、と言うわけだ。
一手詰めしか手の内に無いお前と、三手四手と詰め筋があるワシ、どちらが有利か、もはや言わずとも分かるだろう?」

「・・・・・」
返す言葉も無かった。
「だが、お前には素質がある。」
「本当ですか!?」
「ああ、今ワシが言ったことを心がけて訓練をすれば、すぐに出来るようになるはずだ!」
「はい!」
「しかし、そのためには『釣神の眼』これは捨てなければならないだろうな。これを身に付ける訓練には邪魔になるだけだ!」
「・・・・・・・」

「眼を持ち続けて偽りの達人で居続けるか、それとも眼を捨てて真の達人を目指すか、どちらを取るかはお前の自由だ。
後は好きにするが良いさ!」

その場にへたり込み悩む私を残し、Tさん、いやT師匠は、風のように去っていった・・・。

・・・
・・・
それから数日、とある山中の祠にて
「お、×がついてるじゃないか!
うん、あの若者ワシの言ったことが理解できたようだな♪感心、感心」

嬉しそうに、その老人は頷いていた・・・
「しかし、全くあの若者は単純だったのぉ、まさかここまで上手く騙せるとは思わなかったわい。
まぁこれも試練だ、悪く思うなよ」

そういうと老人は、お札に自分の名前を書いた。
「すまんな、アッチの世界の魚は手強くてなぁ・・・しかし、あの滝にいるアイツだけは、なんとしても釣り上げたいんじゃよ。」
と、ぶつくさと言い訳しながらどこかへと立ち去ってしまった。

残されたお札には、「太公望」。大きく名前が書いてあった・・・・

・・・
・・・
・・・

この後、太公望様(=釣神様)は、アッチの世界(天界?)の滝壷に居る大物を見事釣り上げ、、潔く自分でお札の名前に×を付けるのですが、元あった祠とは違う場所にお札を移動させてしまったようです。
これからも、色々な釣人に『釣神の眼』は受け継がれていくことになりますが・・・
その話は、また次の機会にでも(笑)

あなたの通いなれた川の近くに、古びた祠はありませんか?
ひょっとしたら・・・・


end

Kawatombo Ken

そうそう、もし酔狂な方がいましたら、「釣神の眼」を題材に小説を書いてくれませんか?(プレゼント企画ではありませんが・・・)

PS.
千曲川釣行会、企画しています!!
詳しくはこちらを参照ください「千曲川釣行会のお知らせ!!」
近々、再度詳細をアップします。

PS.その2
「釣りバカ川柳大賞」、作品募集中です!!



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