幻想・川蜻蛉 第拾弐話「続、未来フィッシャーウラシマン」前編

Kawatombo Ken

2008年06月03日 23:50

今までのあらすじは、こちらを読んでください
「未来フィッシャーウラシマン前編」
「未来フィッシャーウラシマン後編」
「ウラシマンAnather Side」

釣りを趣味にしていると、時に不思議な事件に巻き込まれる・・・

「一体いつまで続けるつもりなんですか?」
「・・・・」
「あなたの肉体はもはや限界に近いんですよ」
「せめて、AIプログラムが成長しきるまでは・・・」
「無理です、この時代の感情が退化した人間にすら及ばないプログラムなんですよ」
「ならば・・・」
・・・・
・・・・
・・・・

この川のほとりに住むようになって、そろそろ1年だろうか?
釣ばかりの生活もなぁ・・・なんて思っていたが、意外とすることは多く、それなりに充実した日々を送っている
一昨日、昨日と、川原の低木の枝打ちをしてきた。
山岳渓流とは言え、適度に日の当たる場所を作っておいた方が、落ち葉の分解が促進される・・・すなわち川虫が増え、魚が沢山の餌にありつける、と言うことだ
他にも、単に自然に丸投げではなく、ある程度循環が上手くいくように少し手を加えてやる、そんな方法で今、5本の川の面倒を見ている。
500年前、私がかつて生きていた時代で、ずっと考えていた理想の河川の管理方法を実践できるのだ!
そう思えば、この時代もそんなに悪くはない

そして今日は、小学校の社会科見学が来た
総人口は、500年前の10分の1未満に減ったとは言え、入れ替わり立ち代り、世界中からやってくるので、この社会科見学の案内が一番大変な仕事だ
ヘビのような眼と舌を持つようになってしまった人類は、かなり感情に乏しくなってしまっているが、子供はやはり無邪気だ!
はしゃいで、騒いで、先生に怒られて、しょんぼりしている。
そんな姿を見ていると、やはり口の端が緩んでしまう。
無論クソ生意気なガキも、無鉄砲なジャリも健在で、行くな!と言っておいたにも関わらず、山奥に入ってしまった子供がいて
捜して山中を駆けずり回った挙句、子供はチャッカリ戻って車の中で眠っていた・・・疲れる(笑)

他にも、研究者が調査に来たり、物好きな自然愛好家が来たりと、この1ヶ月は本当に忙しかった・・・

「お疲れ様でした、コーヒーはいかがですか?」
「良いね!頂くよ」
ナナコが、コーヒーを煎れて来てくれた。相変わらず良く気が利く!
「伐採用の奴らは?」
「はい、バッサイクンは、格納庫内で自動メンテナンスモードに移行しています」
「そのネーミング、何とかならないのか?ナースロイドはまだ良いにしても、ドクロイドとかバッサイクンとかさ・・・」
「何ともなりません、製品名ですから♪」
「しかしさぁ」
「あら、可愛い名前じゃないですか」
「そうかなぁ・・・」
このナナコ一応ロボットなのだが、余程優秀な人工知能を搭載しているのだろう
今や私は、心の底からナナコのことを「良き友人」であり「良きパートナー」と思っている

「明日は釣りに行けるんだよね?」
「・・・」
「ナナコ?」
「はい、明日の予定はB川で、生息量調整を行うことになっています。22日ぶりです。」
「あ、ああそうか」
ここ最近ナナコの様子がおかしい
人間以上に「人間らしい」仕草、感情を表すロボットナナコが、時折「普通のロボット」のように冷たい反応が現れるようになった
当たり前と言えば、当たり前なのだが、普段ならば「生息量調整」なんて言葉は使わない、釣人である私が嫌がるのを知っているからだ
そろそろ定期メンテナンスの時期だ、担当の技術の人に聞いてみよう
数少ないこの世界の友人がこの調子では、寂しいことこの上ない


翌朝、ナナコが起こしに来た
「おはようございます!今日はどんより曇空、絶好の釣日和ですよ♪」
「そりゃあ、楽しみだね!」
いつものナナコに戻っていた、曇空をこんなに嬉しそうに表現する人は、500年前にすらお目にかかったことが無いね(笑)
「Jさんがお見えになってますよ、一緒に釣りに行きましょうですって」
私がこの時代に来た時、何くれと無く世話を焼いてくれたJさんとは、この1年で随分仲良くなった
彼のおかげで、この時代の人間のことが理解出来るようになった
彼らは感情が乏しいのではなく表情に出なくなっただけ、と言うことが判ったことが、一番大きい
つまりJさんは、ずっと無表情のまま私を心配し、元気になったのを喜び、釣れた時は表情を変えずに笑っていたのだった。
人情家で、良い奴!これが今のJさんに対する私の評価だ
更に彼は、この時代では無理だろうと諦めていた釣仲間の最初の一人だ!

文化としての釣が滅びて200年、道徳的にも生き物を傷つけるレジャーをタブー視する風潮のある世界ではあったが、よっぽど私が楽しそうに釣をしていた姿が気になったのだろう、半年前に初めての魚を釣って以来、度々「生息量調査への協力」と言う名目で一緒に釣りに行っている
彼の紹介で、少しづつではあるが、釣に興味を持つ人が訪れてくるようになり、今では5人ほどの釣仲間が居る!
本当に彼には感謝してもしきれない
「今日こそは、本気を見せてもらえるんですよね♪」
無表情のままさりげなく私を牽制するJさん
・・・たった半年で、時に俺より良い魚を釣るほどの腕前になってしまったことは想定の範囲外だ!!!
「当然!今日こそはキャリアの違いを見せ付けて上げますよ!」
サケとタラコのおにぎりを持ったナナコを引き連れて、上流に向かった

私とJさんとの勝負は、全くの互角だった・・・
あくまで自分の時代500年前の釣りに固執する私に対して、その後300年間かけて進化しつづけたハイテク釣具を駆使して魚を狙うJさん
ロッドは、私が日本の博物館で見つけたバンブーロッドに対して、
JさんはS○GE#00000(クイントゼロ:トリプル、クワッドに続く究極のライトロッド)
「意地を張らずに、もっと性能の良い道具を使ったらどうですか?」
「フン!ロッドの性能差が、釣果の絶対的な差では無い事を教えてやる!!」
と言っては見たものの、このギャグを理解できる人はこの世界には居ないんだよな・・・
「大佐!ノーマルスーツ(ウェーダー)を着てください!!」
あ、一人いたか(笑)

「ナナコ、今のカウントは?」
「今日は、25cm以上の数の勝負ですから・・・今の所は引き分けですね!」
Jさんを見ると、巻き返しを攻めているようだ
リールに付いているレーザー光線でポイントまでの距離を測り、適切な量のラインを引き出すとピピッと鳴って知らせてくれる
フライラインは、キャスティング時には細く比重が高くなり、風にも負けずに真っ直ぐ伸びる
水面に落ちると、今度は太く比重が軽くなり、浮力は高く水切れも抜群!
圧巻なのは、ロッドSA○E#00000!手首で軽く振るだけで、自由自在に遠距離から近距離までビシッとキャストが決まる
しかも、事前にラインの形を指示しておけば、スラックもカーブも思いのままだ!!
これでは、釣れない訳が無いじゃないか!
唯一ハイテクでは無いフライに、大きな口を開けた魚がジャンプライズ・・・尺上だ

やられた・・・ついにリードを許してしまった、って言うか、この反則とも言えるハイテク釣具を相手に良くやってるよ俺!!
「来た!」
私のフライにも来てくれた♪
さすがに尺上とはいかなかったが・・・ん?微妙な大きさだ、25cmあるか?

「ナナコ、測定を頼む」
「はい・・・24.7cm、基準サイズ未満ですね・・・Jさんの1匹リードのままです」
な、3mm小さかったか!
「おいおいナナコ、3mmくらい大目に見てくれよ♪このままじゃ負けちゃうじゃないかよ!」
「ははは、それはズルイでしょ!3mmでもダメですよ」
「・・・・」
「ナナコ?」
「・・・かしこまりました、測定値を修正します。25.0cm、基準サイズです・・・現在の所同数で引き分けです」
まただ、普段のナナコなら「勝負は勝負です!往生際が悪いですよ」とか言って、笑顔でたしなめてくれるはず・・・
「どうしたんだ・・・ナナコ」
「システムスキャン・・・思考回路ならびに行動回路に異常なし、システムは全て正常です」
「Jさん、どういう事か判るかい?」
「いや、特に問題ないと思いますよ、何せこの時代の人間が作ったAIプログラムですし、多少冷たい受け答えになることもあるでしょ」
「・・・やはり、おかしいよな・・・もっと早く気付くべきだった・・・」

私はその場に立ち尽くし、今までのことを整理してみた・・・
そう、ナナコはこの時代に作られたロボットのはず、それなのに
この時代の人間よりもはるかに表情豊かで人間的、言葉の端々に優しさがある
そんなAIを作る必要も無ければ、そもそも作れるはずが無いじゃないか!?
やはりナナコは、私と同じか近い時代に生きていた人間・・・そうとしか考えられない

「ナナコ・・・君はもしかして、俺と同じ時代の・・・」
と言い終わるか、終わらないかの瞬間、急に意識が遠くなりその場に倒れこんでしまった

「Jさん、何を!?」
「いくらなんでも、ここで謎解きをされたらお互い困るでしょ?大丈夫、眠っているだけです。それより、奈々子さんの方こそ大丈夫なんですか?」
「はい、取り敢えず容態は安定しました・・・」
「奈々子さん、誤魔化すのはさすがにもう無理です。全てをお話しましょうよ、このままでは悲しすぎます・・・彼も、あなたも」
「・・・でも、辛い思いをさせたくないんです・・・この人だけには・・・」
「・・・・・・・とにかく、戻りましょうか」
二人は飛行自動車を呼び、私を運んで家へと戻っていった
ナナコは、何かを決意したようだった・・・
・・・
・・・
・・・
・・・

未来フィッシャーウラシマン完結編に続く・・・

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