幻想・川蜻蛉 第拾参話「蒐集品の沢 前編」

Kawatombo Ken

2008年10月16日 22:02

初めて幻想川蜻蛉を読む方へ・・・
このシリーズは全部「フィクション」です
釣をテーマにしたチョット不思議な話を小説として執筆しております(^^)b
興味のある方は、カテゴリー「短編釣小説『幻想・川蜻蛉』」をクリック♪
私個人的にオススメは「第参話 菱形の斑紋」「第伍話 フライパッチの主」あたりでしょうか?
気が向いたら読んでくださいね!

さて、今回の話は4ヶ月ぶりにアップした新作
一応「第拾話 不幸の毛鉤」の続編ですが、特に話は繋がっていませんので
気軽に読んで頂けると嬉しいです!!


「蒐集品の沢 前編」

釣を趣味にしていると、時に不思議な体験をする・・・

つい先日、某県、某河川での遠征釣行を最後に今シーズンの釣行は終わった
幸いにも最後の釣行では、目的の特殊斑紋魚を釣り上げる事に成功した
とある釣具店の店長の影響で、2年前から始めた特殊斑紋の探索
「この4種類の魚を全部釣ったら、良い所に連れて行ってやるよ」
という店長からご褒美つきの課題をもらっていたから・・・と言う訳ではないが
全国に散らばるこの4種類を釣り上げるのには相当苦労をしたが、何とか2年目の最後の最後で4種類目を釣り上げる事が出来たのは幸運だった

釣から帰ってきた次の休日、沢山撮った写真のデータを持って
早速店長への報告に向かった
『釣魔栗堂』・・・
知る人ぞ知るFF用具専門の名店(迷店?)で、店長は、極めて無愛想で頑固で偏屈
それなのに商売が成り立っているのは、とんでもないほどのマニアックな品揃えにあるのだが・・・
「出てけ!!」
・・・また客とケンカしてるみたいだな
「いや、軽くて使いやすいロッドが欲しいって・・・」
「重くて、使いにくいもの以外は、フライロッドじゃねぇんだよ!」
滅茶苦茶いってるなぁ(笑)
「そんな馬鹿な!じゃあ初心者はどうするんですか?」
「初心者がフライなんてやるな!!」
て、店長、おかしいって!
「訳分かんないよ、この店」
客らしい青年は、怒りながら店を出て行った・・・
本当に、商売をする気あるのかね?

私は、恐る恐る店内に入った
「ど、どうも」
店長はギロリと私のことを睨むと
「なんだ、またお前か・・・」
とそっぽを向いてしまった。
私はホッとした、機嫌は悪くないようだ(?)、信じられないかもしれないがコレがこの店長なりの「いらっしゃいませ」なのだ(笑)
本当に機嫌の悪いときには、店中が負のオーラで充満され常人では近付く事すらままならないらしい・・・先ほどのやり取りを聞いてしまったので少々不安だったが、この店では「いつもの事」
客を追い払う事が日常茶飯事の店長にとっては「面倒くさい事」くらいの認識のようだ

「で、どうした、何の用だ?」
とても店主が客に言う言葉とは思えないのだが・・・まぁ気にしても始まらない
「いや、この間行った例の沢でさ」
私が言い終わらないうちに
「4種類目、釣ったか!!?」
珍しく目を輝かせて店長は聞いてきた
「はい、それで一応見てもらおうと思って写真を持ってきたんですよ」
「おお、そうかそうか!よし、奥に上がれ、コーヒーでも飲もう」
珍しい事もあるものだ、「あの」店長が笑顔を見せている・・・
「店は良いんですか?」
「あぁ結界を張った、余計な奴は来ない」
「はい?」
「結界だ!だから客は来ない」
何を言ってるんだか良く判らない・・・
しかし店長、あなたにとって客は「余計な奴」なんですかぁ?(笑)

この店で、店長がコーヒーを出してくれる程気に入られている客は、ほんの数人
まして奥の部屋に入った事があるのは、私の知る限りでは一人か二人居るだけだ!
こんな偏屈オヤジに気に入られたからって、別段何か得があるわけではないが、特別扱いの常連客・・・この響きはやはり魅力的な響きがあり、チョット嬉しかったりする
「ここに座って待ってろ」
「はぁ・・・」
通された奥の部屋には、アンティークの釣道具がビッシリ・・・と思っていたのだが
得たいの知れない不気味な仮面や幽霊画の掛け軸などが壁中に飾ってあり、四方の棚にはコレも不気味な人形やら、遺跡から出てくるアクセサリーのような物、あれはミイラの手・・・まさか?
「そうそう、迂闊にその辺の物に触るんじゃないぞ、『祟られる』ものもあるから・・・」
私は伸ばそうとしていた手をビクッと引っ込めた
まるで骨董品屋の倉庫・・・いや、悪魔崇拝者の隠れ家?とでも言えば良いのだろうか?
数少ないこの部屋に上がった事のある人から「無茶苦茶怪しい!」という話は聞いていたが、まさかこれほどとは!?
この店長、釣の達人であると同時に、風水と陰陽道に精通し西洋黒魔術にも造詣が深く、しかも単なるマニアではなく『本物』だと言うのはこの店の常連客からしばしば聞く話だ・・・あくまで噂だが

部屋の雰囲気に圧倒されていると、芳ばしい良い香りと共に店長が戻ってきた
「待たせたな、ほら」
そういうとこれまた怪しげなカップに入ったコーヒーを差し出した
味は、まぁ美味かったが、ゆっくり香りを楽しむ雰囲気でない事だけは確かだ
一口飲むと、私は突っ込まずにはいられないでいた質問をぶつけた
「店長・・・この部屋は・・・なんですか?」
「うん、元々はアンティークの釣道具を趣味と商売で集めていたんだが・・・色々周っているうちにこっちにも興味が出てきてなぁ」
「趣味のコレクション・・・ですか」
「半分はそうだ、後は商品だな・・・通販だけだが、オカルト系の曰くつきの物は高く売れる」
なるほど・・・
この店が、あんな無茶苦茶な商売をやっても潰れない理由が垣間見えた
「で、こっちの棚にあるのは、陰陽道や黒魔術の儀式やらに使う・・・まぁ実用品だ」
「じ、実用品って・・・」
店長の顔を見ると、目が妖しく輝いている・・・聞かない方が良さそうだ

「で?」
唐突に店長が切り出した、思わずビクッとしてしまった・・・
「は・・・はい?」
「写真!」
「あ、あぁそうでした、このSDカードに入れてきましたよ」
店長はSDカードを受け取ると、パソコンで画像を開いた
「ほぉ、なかなか良い斑紋だ。特徴が良く出てる」
珍しく、というか初めてのお褒めの言葉が店長の口から出てきた
本当に機嫌が良い、特殊斑紋なんてマニアックな世界に踏み込んでくるフライマンが少ないせいもあるんだろうか?自分の趣味を理解する私に対して店長は明らかに喜んでいるようだった
「あともう1匹、こっちは小さくて恥ずかしいんですが・・・」
「バカを言うな!この手の魚に大きさは関係ないと言っただろ!!」
釣に関しては至極常識的な意見を言う店長
「スイマセン、そうでした」
「まぁ良い・・・ん?コレは稚魚なんだろうが・・・なるほど、これは面白い!良い写真を撮ってきたな」
私には何が面白いのかイマイチよく判らなかったが(笑)
店長は喜んでいるようなので、良しとしておこう!
「こっちの稚魚の写真は、データベースに入れるからもらっておくぞ」
なんと!
全国をくまなく回り、特殊斑紋と呼ばれる魚はおろか、各河川の原種のデータベースすら持っていると普段自慢している店長が欲しがるほどの写真だったのか!?
チョット誇らしい、もちろんOKした

「で・・・あのぉ・・・」
機嫌が良さそうなので、遠慮がちに切り出してみる事にした。もちろん「良い所」の件だ!
「判ってる、良い所だろ?約束どおり連れて行ってやる・・・そうだな来週の土曜日でどうだ?」
「え、川じゃないんですか?」
私はてっきり、4種類以外の特殊斑紋魚の生息河川に連れて行ってもらえると思っていた訳で、すでに全国的に禁漁期・・・来年のお楽しみなんだろうなと、勝手に想像していたのだが
「川に決まってるだろ」
「でも・・・禁漁期じゃ・・・」
「関係ない!俺の持ってる山にいくつか湧き水が出ていてな、少し改修工事をやって1本の流れにしたんだ。まぁプライベートリバーだな」
なるほど!
一気に私の期待感は高まった、この偏屈なこだわりフライマンである店長が自ら作って「良い所」と呼ぶ場所だ!満足な釣りが出来ないはずが無いじゃないか!!

「で、やはりイワナを放流しているんですか?」
当然の質問をした訳だが、店長は嬉しそうにニヤリと笑った
「秘密だ・・・だが、ここにも俺の自慢のコレクションを放してある♪」

コレクション・・・・
この言葉の本当の意味を、このときの私はまだ判らずに居た。

後編に続く

Kawatombo Ken


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