釣り馬鹿刑事Kenの事件簿~ヤマメの鎮魂歌~(1)
釣り馬鹿刑事Kenの事件簿
~ヤマメの鎮魂歌~
魚を愛する兄弟の絆を引き裂いた巨大利権に群がる人の欲望!!
その果てにKenが見たものとは!?
ヤマメ釣りのメッカである某県某市にある大杉川・・・
その支流部には、人工養殖・放流されたヤマメの影響を全く受けていない純血種が生息している事でも有名だが
この地を訪れる釣人の9割以上は、キャパシティーの大きな川で育った放流のヤマメを狙いにやって来る
とは言え尺を越える魚も数多いことから、充分すぎるほどに魅力的な川であることは疑いようが無い
各言う私もこの川の本流に、尺ヤマメを狙いに「職場」の後輩である伊佐を引き連れてやってきた訳だ!!
だが久々の休暇に片道3時間も掛けてきたと言うのに、朝からほとんど魚の反応が無い・・・
「Kenさ~ん!全然ダメですよぉ~」
伊佐の奴は、早くも泣言だ!!全く、相変わらず根性の無い奴だな
しかし、やはり昨夜の大雨による増水の影響は大きいようだ
ウェットフライでも流してみれば、また違うかもしれないが、生憎二人とも生粋のドライフライ派(ドライしか出来無いと言う噂もあるが・・・)
大岩の巻き返し、瀬尻、と増水の中でも比較的流れの緩やかな場所を中心に攻めてはいるのだが・・・う~ん・・・やはり反応が無い
久々の釣り、何とか1匹くらい型を見ないことには納得がいかない
「おい伊佐よ!もう少し上流に行ってみようよ、小さいヤマメしか釣れないだろうけど、この流れじゃどうしようも無いよ」
「そうですね♪ここじゃ歩くのも危ないですし」
とあっさり同意した伊佐は、さっさと岸に向かって歩き出した
あ~あ、危ないなぁ・・・こんな急な流れの中をあんなに大股で歩いたら、転ぶぞ
「うわぁあああ!!!」
ザバン!!大きな水音が聞こえた、だから危ないって言ったのになぁ(いや、思っただけか・・・)
「大丈夫か?」
幸いそれ程深くない場所だったようで、伊佐は尻餅をついただけで竿も折れていない、運がよかったな!
「うわ!うわうわうわぁあああ!!け、けけけけんさん!!!」
「なんだよ、さっさと立たないと服の中までずぶ濡れになるぞ」
足でも挫いたのか?
やれやれ、手を貸してやるか・・・と伊佐に近付くと葦の切れ間から、何か白い物が飛び出ているのが目に入った・・・
見覚えのある嫌な物、久々の休日、しかも釣りの最中には絶対にお目にかかりたくないものだった
「し、死体です!」
伊佐はかなり動揺して腰を抜かしたようなので、私は彼の腕を掴み起こしてやる
これが「仕事中」であれば、
『死体くらいで動揺するんじゃないバカモノ!!』と怒鳴りつけてやる所だが・・・無理も無い
普段我々は「死体が有る、有るかも知れない」と判った上で出向いていくわけだ
プライベートでいきなり死体と出くわすなんて事に、心構えなど出来ようはずも無いだろう
恥ずかしながら私も彼ほどではないが動揺している
しかし、それを伊佐に悟られるわけにはいかない先輩の威厳を保たなければ!!
「伊佐、ここは携帯の電波が入るはずだ、110番通報しろ!俺は現場保存をする」
電話で話をして万が一にも口ごもってしまっては、動揺しているのがバレてしまうからな・・・スマン伊佐!
死体は恐らく増水した川に流されて、岸辺の葦に引っ掛かったんだろう
格好から見るに釣人に間違いない、性別は男、年齢は恐らく50台
増水に巻き込まれての溺死か?・・・とも考えたが、顔が膨れていない・・・死んだ後で川に流された事が判る
「ん・・・?」
この顔には、何か見覚えがあるような気がするが、どこかの釣り場で会ったのか?
思い出せない・・・
「連絡してきましたよ!」
伊佐が戻ってきた、どうやら動揺からは立ち直ったようだ
流石は私の部下、と言ったところか・・・いや、当然か!
「この男、どこかで見た覚えがあるんだが、伊佐、お前見覚えは無いか?」
「う~ん・・・釣人みたいですから、どこかの川であったことがあるかもしれないですが・・・覚えてないですね」
「そうか・・・」
そうこうしている内に、地元の県警がやってきたようだ
パトカーが一台?
何をやってるんだ、死体を発見したと言うのに・・・まぁ、この田舎じゃあ無理も無いのか?
「どうしましたかぁ!!!」
やってきた警察官は二人、我々のそばに横たわる死体を見つけると、一人は慌てて無線を飛ばしに戻っていった
「昨日の増水に巻き込まれたんだろうなぁ・・・毎年2,3人はいるんだよ」
やはり事故だと思っているようだ
「いや顔を見てください、恐らく川に流されたのは死んだ後と思われます、転落死か心臓麻痺か・・・殺人も視野に入れた方がいいでしょうね」
「はい?」
警官はあっけに取られているようだ・・・
「思い出した・・・被害者の名前は、恐らく鬼頭・・・鬼頭雅義、1年前の三里則和の交通事故死の時に捜査線上に名前が上がっているはずです」
そうだ!絶滅危惧種である「藍色ヤマメ」の保護活動の代表者が、産廃処理場建設の反対運動中に交通事故で死んだ
釣人の端くれとして興味を持って、多少なりとも調べてみた時、容疑者として名を連ねていたのがこの男・・・鬼頭雅義だ・・・
「あんた・・・何者なんだ?」
「警視庁捜査一課 川戸健太郎警部です」
私はこの後の刑事人生で、釣りや魚に関する事件に、次々と関わる事になるのだが
これはその最初の事件となった・・・
(2)へ続く
Kawatombo Ken
今回の話は、全てフィクションです
登場人物の名前、及び地名は、作者である私Kawatombo Kenの創作による仮名です
実在する人物、団体、地名とは関係有りません
とは言え、一部の登場人物にはモデルがいますが・・・(笑)
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