釣り馬鹿刑事Kenの事件簿~ヤマメの鎮魂歌~(4)

Kawatombo Ken

2009年03月07日 14:37

釣り馬鹿刑事Kenの事件簿
    ~ヤマメの鎮魂歌~

(1)(2)(3)から読みたい方は、こちらからどうぞ♪
「釣り馬鹿刑事Kenの事件簿~ヤマメの鎮魂歌~(1)」
「釣り馬鹿刑事Kenの事件簿~ヤマメの鎮魂歌~(2)」
「釣り馬鹿刑事Kenの事件簿~ヤマメの鎮魂歌~(3)」

我々はただ遠征釣行に来ただけだと言うのに、二日続けて警察の事情聴取を受ける羽目になるとは・・・
初日は死体の第一発見者となり
二日目はその事件の参考人と一日一緒に釣りをする
こんな言葉を使うのは好きではないが、何か因縁と言うか運命を感じざるを得ない
三里則和氏が導いたとでも言うのだろうか?

「すいませんね、本庁の警部さんにこんなことしたくないんですが、これも仕事なんで・・・」
私の事情聴取は、取り調べ室では無く応接室、担当したのは愛好刑事の上司だった
一応気を使ってくれているんだろうな
「気にしないでください、まぁお話しした通り彼とは川で偶然会っただけですから、それに被害者と彼の兄の関係も知っています。私でも彼を参考人として事情聴取するでしょうね」
しかも死体の第一発見者と一緒にいたら、怪しいことこの上ない!
本庁の刑事の肩書がなければ、参考人として数日勾留されたっておかしくはない状況だ・・・

「ええ、まぁ・・・ただ三里久則は参考人と言うか・・・重要参考人として勾留することになりそうでしてね・・・」
「本星(ホンボシ)と言う事ですか」
「ええ、そう言う事です」
昨日遺体の発見現場付近で彼を見かけたことは、すでに伝えた訳だし当然そうなるだろう
犯人であって欲しくはないが、言うべき真実を隠すことなど出来ない
口ぶりからすると、相当兄とは仲が良かったのだろう、そしてその兄の死に鬼頭が関与していたのではと疑いを持っていたとしたら・・・
殺害の動機も充分にある

「失礼します」
愛好刑事だ、後ろからは伊佐も覗き込んでいる
「あの、三里久則にはアリバイがあると言う方が来ているんですが、どうしましょうか?」
「はぁ、いくらなんでも早すぎないか?ヤツが呼んだのか?」
「いえ、そのぉ・・・遺品の一部を受け取りに来ていた、ガイ者の娘でして・・・」
あの時
『あんな奴、死んで当然だったのよ!』
すれ違う時に呟いていた、あの娘か・・・
「なんで被害者の娘が、その容疑者を庇うんだ?しかも自分から進んで・・・まぁとにかく話を聞いてみてくれ」
「はい」
確かに、いくら死んで当然と思っていても、自分の父親が殺されて、その容疑者を庇う・・・恋仲なのか、共犯と言う可能性もある・・・
「あのぉ、私も同席させてもらっても良いですかね?ココまで関わってしまいましたし、休日が台無しにされた事件の顛末くらい知っておきたいんですよね」
二日続けて警察署に連れて行かれたことをチクリと突付いてみた
「・・・余計な質問は無しと言うことなら・・・愛好、お前に任せる」
渋々了解した、という表情が見え見えだ!
こいつも伊佐同様にすぐに考えてることが顔に出る「ダメ刑事」なのか、それともわざとやっているのか・・・前者だろうな恐らく
本庁の警部という役職を傘に着るのは好きではないが、まぁこれくらいなら良いだろう。縄張りを荒らすつもりは『今のところ』無い訳だし♪

二人で鬼頭の娘の待つ取調室に入った、残念ながら伊佐は留守番だ・・・俺達を待つ間、少し調べてもらいたいこともある
メモを書き伊佐に渡しておいた
警察署内で全部調べられる内容だ、何とかなるだろう
部外者閲覧禁止の所は、ヤツの交渉能力で突破してもらうことにする

「鬼頭由美さんですね」
「はい」
若いな・・・先日あったときは年までは判らなかったが、制服を着ている。恐らく高校生なんだろう
う~ん、いくらなんでも40過ぎの久則さんと恋仲、と言う可能性は薄いな
「で、話したいこととは?」
「父の死んだ時間は、13日の7時半以降なんですよね?」
6時に大杉川での目撃証言と、7時半に橋の袂で取ったと思われる写真がデジカメのデータに残っていたことから、ほぼ確実だ
「私、その日の9時に会っているんです。その後しばらく一緒に居たんで」
何だって!!!
恋愛関係説急浮上か!?
40過ぎのオヤジの分際で、女子高校生と付き合っているのか!
もう殺害容疑などどうでも良い、射殺だ!!(笑)
「フライフィッシングの先生なんです、だから一緒に釣りをしていたんです」
我々二人の表情から察したのか、由美は慌てて付け加えた
「こちらの刑事さんにも、何回か川でお会いしてますよね?」
「そう言われてみれば・・・釣場では帽子とサングラスをかけていたから気付かなかったよ」
急に場の雰囲気が和んだ
オヤジ二人に女子高校生、この3人の組み合わせで話が弾むことがあろうとは!?

由美ちゃん(すでに「ちゃん」付けなのは、オヤジだからだ!文句あるか!!)の証言はこうだ
ちなみに使っているタックルは、ウィンストンのロッドに、ビルバランのフライリール・・・ガキの癖に生意気な!!
17歳にして、すでにフライ暦は10年近いと言うこと
で、体重と3サイズは秘密と言うことだった
・・・本題に入ろう(笑)

釣をしたのは「小笹川」(鬼頭の家から自転車で一時間以内に行ける範囲の川らしい)、入渓ポイントに向かう途中で山菜取りに来ていた近所のおばあさんに会っているそうなので、確認すれば真偽はすぐに判るはずだ
川に入ると、すでに久則は釣りをしていて、その時の時刻がおよそ9時
久則氏は5時からこの川で釣りをしていたそうで、来る時にそのおばあさんを車に便乗させてきている・・・と言うことだ
「小笹川から大杉川までは、どれくらい掛かるんですか?」
「そうですね、おばあさんを下ろしたのが山加橋の辺りだとすれば、1時間掛かるかどうかと言う所ですね」
愛好刑事は、地図を出して説明してくれた
「5時から9時・・・充分犯行は可能だな」
6時に鬼頭が大杉川に来ていることが判っていれば、写真を撮った7時半以降に殺害して小笹川に戻ってきて由美ちゃんに会うことも出来たと言うことだ
「いいえ、おばあちゃんは『山菜は車で運んでくれると言っていたから、今日は沢山とったよ』と言って、カゴが一杯になるごとに車に積みに戻ってきていたみたいですから」
そのおばあさんが、いつ車のところに戻ってくるかも判らない状況では、犯行に車を使うのはリスクが大きすぎるか
「もし、大杉川まで歩いて行ったとしたら?」
「山を越えていけば近いとは思いますが・・・山歩きに慣れている方でも3時間は掛かりますね」
愛好刑事が指し示してくれた『小笹川から大杉川までのルート』の途中に、昨日3人でムハンヤマメを釣った奥竹沢と、他に何本も大杉川の支流がある、谷をいくつも超えると言うことか、地形図を見ても相当険しいルートだ・・・
奥竹沢は地図上でも途中で途切れている、成る程!地図を頼りに川を探しても見つからないと言う訳だな・・・だからこそ生き延びたんだな彼等は

女子高校生との楽しいひと時(事情聴取だ!)はあっと言う間に終わりを告げて、今度『3人で』一緒に釣りをしようとついでに約束までしてしまった♪当然伊佐は抜きだ(笑)
「そのおばあさんにも話を聞かないとならないですが、ほぼ完璧なアリバイですね」
他にも由美ちゃんは、小笹川は何故か一部で携帯の電波が入るため、釣果の写真をメールで自分のPCに送っていて、それが11時、恐らく電話会社に問い合わせれば位置情報もはっきりするはず
その上、久則のデジカメには由美ちゃんの写真が映っているらしい・・・どれもこれもキチンと裏付けを取れる信憑性の高さ
加えて、被害者の娘の証言と言うのが説得力を持っている
「そうだな・・・」
「久則さんの勾留は止めておいた方が良さそうだと思うんですが、何か気になるんですか?」
確かに引っ掛かるものはある
だが、まだモヤモヤしていて形にならない、そんなあやふやな勘で縄張りを荒らす訳にも行かないだろう、やるならもっと核心に迫ってからだ!
「いや、それで良いと思うよ。由美ちゃんが嘘をついている様には見えなかったし、勾留する理由は無いだろう・・・今の所は」
「確かにそうですね・・・じゃあ私はそのおばあさんの所に行きますんで」
挨拶をし、愛好刑事と分かれた


さて、伊佐の方はどうなったかな?
周りを見渡して探すと、視界の端に勝ち誇った顔でVサインをするムカツク奴の姿が入った
上手いこと仕事をこなしたらこなしたで腹立たしいのは何故だろうか?
「で、どれくらい判ったんだ?」
「はい鬼頭由美、17歳、地元の県立高校の2年生です。女子高校生だったんですね!結構可愛かったでしょ?」
「まぁな・・・で?」
「鬼頭雅義は、実父では無いですね。10歳の時に父親を亡くしていましてね、その2年後、母親が鬼頭と再婚したと言う訳です。」
そうか、そうだろうな、いくら母親が美人でも、父親が「あれ」じゃあ由美ちゃん程可愛らしい娘は産まれて来ないだろうな!
妙に納得してしまった
「実父は?」
「国立○○大学の生物科で、分類学研究室の助教授をしていたようですね、名前は佐々崎裕
佐々崎・・・まさか、ここでこの名前に出くわすとは!?
私には心当たりがあったのだが、「ほぼ間違いない」で動くのはまだ早い、事実を積み重ねていくのが刑事だ
ここがコ○ン君や金○一君のような探偵とは違うところだな!(笑)
「伊佐、○○大学に行って佐々崎助教授の事を調べてみてくれ、特に執筆した論文、タイトルと簡単な内容が判れば良い。あとは発見した生物が居ないかどうか」
「え?はい、判りましたが・・・他に由美について判ったこともあるんですが・・・」
「今はそれで充分だ・・・・いや、一つだけ」
「何でしょうか?」
「3サイズは?」
「はいぃ?」
「・・・冗談だ・・・」

佐々崎助教授の件は、伊佐に任せても大丈夫だろう
個人情報に抵触しない範囲での調査だ、大学側も特に令状が無くっても応じてくれるはずだ
私は別にすることがある

伊佐と別れた私は、警察署の玄関脇にある喫煙コーナーでタバコを吹かしながら待っていた
出てきた!三里久則だ
「あぁKenさん、今回は私のせいで余計なゴタゴタに巻き込んでしまって・・・」
「いいえ、気にしないでください、偶然が重なっただけですから」
「刑事さんだったんですね、取調べの方から聞きました・・・兄の活動に協力してくれていた時、常に匿名だったのはそう言う訳だったんですね」
久則の顔色は暗く、言葉は冷たかった・・・気持ちは判る
兄の協力者の中に刑事が居た、それ自体は別に問題ない
だが、あの事件・・・弟である彼にとっては、あまりにも不本意な結末だった
刑事ならば、兄の無念を晴らすために、もっと何か出来なかったのか?
無言だったが久則の目が、そう物語っていた

勿論、私だって愛好刑事だって指を咥えて見ていた訳ではないが
三里則和氏は無念の死を遂げ、その無念はいまだに晴らされていはいない・・・これが結果だ

「で、何の御用ですか?まだ私の事を疑っているんですか?」
「疑っていたことは認めますが、アリバイの証言者が現れまして、今はその裏付け調査をしているんですよ。もっとも私はこの県警の人間では無いんで、何をしている訳でもないですがね」
「アリバイ?」
由美ちゃんが久則のアリバイ証言したことを伝えた
彼は、済まなそうな顔をして頷いた
「そうですか・・・由美ちゃんが」
「彼女もFFをやるそうですね、なんでも久則さんが師匠とか。あまり穿った物の見方はしたくないんですが、女子高校生の由美さんと久則さんの組み合わせが、どうもピンと来なくてね。一体本当はどういう関係なんですか?」
我ながら下衆な勘ぐりだ、とは思う。先ほど由美ちゃんと話して判っているはずなのに・・・
彼の反応を見るために鎌を掛けたのだ、刑事と言う職業は「良い人」では勤まらない、つくづくそう思う
「藍色ヤマメはね・・・由美ちゃんにとっては『父親』そのものなんですよ」
久則は、あからさまに嫌な顔をして答えた
「どういうことですか」
「刑事さんなんでしょ?ご自分で調べたら良いんじゃないですか」
吐き捨てるように言う久則氏の言葉、こんな言葉をぶつけられるのは慣れている、慣れてはいるが平気な訳じゃない
彼は自分の憎しみの持って行き所が無いのだ
「お兄さんの事件・・・私にとっても悔しい結末でした・・・でも、捜査を諦めた訳じゃないんですよ・・・刑事としてではないです、一人の釣りバカとして、仲間の敵を討つためです」
そんな言い訳じみた言葉しか私の口からは出て来なかった
「・・・奥竹沢と本流の出会いから、100m程上流に行くと良い沢があります。明日まだこちらに居るのでしたら、入ってみると良いですよ・・・それじゃあ」
苦笑いを残して、久則は帰っていった
私は深々と頭を下げてそれを見送った・・・

その後私は暇つぶしを兼ねて、繁華街のネットカフェに陣取り今ある情報の整理のためネットサーフィンを繰り返していた
正直パソコンはあまり得意ではないが、県警のパソコンを使わせてもらう訳にもいかない現状では、これが最良の手段だろう
しかし・・・元々マイナーな特殊斑紋魚の中でも更に特殊な「藍色ヤマメ」
いくら検索をしても、すでに知っている以上の情報は皆無だった。
たまに「これは!?」という断片情報を見つけても、結局は三里和則氏のHPが情報ソースだったりするので意味が無い
愛好刑事のものと思われるブログを発見したのが唯一の収穫だ・・・(あとで突っ込んでやろう♪)

愛好刑事のブログを読みながらニヤニヤしていると、携帯電話が鳴った、伊佐からだ
「Kenさん、判りましたよ!衝撃の事実です!!」
「そうか判った、もう良いから戻って来い」
「いや、ですが、凄い情報なんですって!ビックリしますよ!!実は・・・」
「由美ちゃんの父親の佐々崎裕が、藍色ヤマメの正式発見者である佐々崎助教授と同一人物であることが確認できれば、それで良い。
それとも何か?これ以上に凄い情報でも見つけてきたのか?
双頭のヤマメの生息情報とかなら聞くぞ♪」

久則とのやり取りで、少々やりきれない気持ちを抱えていたので、伊佐を弄って憂さ晴らしだ(笑)
「・・・知ってたんですか?意地悪だなぁ」
「まぁそう言うな、宿が変更になったから場所をメールで送る。そこで落ち合おう」
携帯を見ると、愛好刑事からのメールも届いていた

『裏、取れました 久則、シロです』

「アリバイは完璧・・・か・・・しかし・・・」
まだ私の心には引っ掛かりが残っていた


今晩の宿は、事件のゴタゴタのお詫びと言うことで、愛甲刑事が手配してくれた温泉宿(何と一泊分の費用は県警持ちだ!!)
大きな露天風呂が名物で、当初泊まる予定だった所とは比べ物にならないほどの老舗の高級旅館だ
せめてもの憂さ晴らし、温泉を楽しむことにしようか!
「ふぅ~、生き返るなぁ・・・」
お湯に浮かべたタライの中には熱燗♪
9月に熱燗はまだ早いように思えるが、やはり露天風呂には熱燗に限る!
泉質は硫黄泉、効能は・・・まぁこれは良いだろう、『ナンタラサスペンス劇場』なら女優さんの入浴シーンが入る所だが、ここに居るのはむさ苦しくも40台と20台の男二人のみ!
「コンパニオンくらい呼んでくれても良さそうなものだがなぁ・・・」
「そりゃあダメでしょ、『県警による本庁警部の接待』なんてマスコミにばれたら大変ですよ!」
「正論を吐きやがって!もう少し酸いも甘いも噛み分けるようにならないと、刑事は勤まらないんだぞ」
とは言うものの、二日連続で一日中動き回った挙句の事件遭遇、加えて心労が重なっては、仮にコンパニオンが居た所で、下半身のニューナンブの撃鉄が起き上がることは無いだろう(笑)

「Kenさん、『あの事件』の事、教えてくれませんか、今回の事と関係があると睨んでいるんでしょ?」
そうだな、伊佐もここまで関わってしまった以上、教えておいた方が良いだろう

「2年前のことだ」
大杉川の上流に大規模な産業廃棄物の最終処分場の建設計画が持ち上がった
しかし良くある話だが、その処理場から万が一にも汚染された水が流れ出てしまったら・・・と地元の意見は推進派と反対派に分かれた訳だ
これも良くある話だが、推進派には工事関係の業者、建設候補地の地権者、及びその関係者とお金が落ちてくる連中が中心、まぁ当然だがな
『処理場の工法的に汚染水が流出する事は100%無い』と言うのがお上の意見、100%だなんて事有り得ないんだがそう国が言う以上通ってしまうのが公共事業というものさ、酷い話だ・・・

だが、一つだけ計画を白紙撤回されかねない爆弾が、この川にはあったんだ
それが天然記念物級の希少種、藍色ヤマメだ
工事中に流入してくる僅かな土砂ですら、細い支流に棲むヤマメにとっては致命的なのだから、もしも生息している証拠が見つかれば、その支流の上流域はごっそりまとめて開発禁止になってしまう・・・推進派にとっては何とも不味い存在・・・と言う事だ
だがその当時は、すでに絶滅しているとして県のレッドデータリストからは削除されていたから、気にすることなく開発のための利権分配は進んでいたんだ
しかし確たる生存している証拠を掴んでいる男が一人居た・・・三里則和氏だ

当初は県や国に生息状況のデータを挙げて、計画の白紙撤回を求めていた訳だが
恐らく政治的な圧力が掛かったんだろう、なかなか認められることは無かった・・・よくある話だ・・・
それでも何とかしようとした三里氏は、自分がフライロッドビルダーとしてそこそこ名前が売れているのを利用して、世論に訴え出る手段を考えた、俺もその活動中に彼と知り合う事になったんだ
まぁ尤も俺は警視庁の人間と言う事もあるからな、あまり表立って協力する訳にも行かなかったんだがな
何度か三里氏とメールのやり取りをしている内に、俺と同じく警察の関係者が居る事が判った、そう愛甲刑事だ
愛甲刑事と知り合う事が出来たのも、実は三里氏のおかげなんだよ

とは言え藍色ヤマメの存在自体がマイナーな上、訴えてるのがバンブーロッドのビルダー・・・マイナーの中のマイナーな存在だろ?人が思うように集まらなかったんだ
そんな時、メンバーの一人が画期的なアイデアを思いついた
県もダメ、国もダメなら、それの頭を飛び越えて国連に報告書を持っていこう!要するにユネスコのレッドデータリストに載ってしまえば、国も県も無視できないだろう、と言う事だ

上手く行っていたんだよ、某大学の水産学部の教授にも協力を得られる事が決まっていたし
緊急を要すると言う事で関係者の調査も、報告書が届き次第動いてくれるように
それを県にも国にも、地元にもすべて極秘で動いていたはずなんだ
あとは三里氏から報告書が届けば、全てが動き始めるはずだったんだ・・・

しかし報告書は届かなかった
三里氏は報告書の提出直前に、トラックに轢き逃げされ亡くなった
あるはずの報告書も結局見つからなかった
その時疑われたのが、三里氏と親交があり藍色ヤマメ生息河川の上流域の地権者でもある鬼頭雅義、計画推進派の筆頭でもあった男だ・・・

愛甲刑事は、そりゃあ熱心に捜査をしてくれたよ
俺も休暇を利用して協力したさ、勿論一般人として出来る範囲でだぞ、要請も無いのに本庁の人間がしゃしゃり出たら、それだけで問題になるからな
しかし・・・犯人として捕まったのは、トラックのドライバーだけ
肝心の報告書も見つからなかった
「結局、単なる轢き逃げ事件として解決、それでお仕舞いだ!!やり切れないよな」

私は、熱燗を満たした杯をグイっと飲み干した

「上からの圧力、ですか?」
嫌の事を聞く奴だ、判って居るくせに
「俺は直接捜査に関わっていた訳じゃないからハッキリした事は言えないが、まぁそうとしか考えられないだろうな」
「それでKenさんは引き下がったんですか?珍しいですね」
「愛甲刑事の事を考えろ、俺達と違ってこの地元に嫁も子供も居るんだぞ!巻き込む訳には行かないだろうが!!」
だが、もし引き下がらなかったとして
果たして鬼頭や更にその上の黒幕にまで手が届いたのかと考えると、無理だったとしか思えない
犯人のトラック運転手が、実際に轢いたトラックと共に自首してきて、証拠も証人も全て疑いようもなく揃っている
唯一の突破口はその犯人に殺人教唆の事を自白させる事だけだが
すでに執行猶予の判決を受けて、その後も鬼頭の経営する会社で働いている奴に自白させるのは、まぁ無理だろう
もし自白してしまったら業務上過失致死から殺人罪になる上、職も失い、地元の有力者から恨みも買う事になる
普通に考えて、余程正義感の強い奴で無い限りありえない事だ
しかし正義感の無い奴だからこそ、こんな殺し屋まがいの事をした訳だし・・・

「要するに八方塞りということだよ」
「・・・やりきれない事件ですね」
残った熱燗を二人で一気飲みして床につくことにした
明日が遠征の最終日だ・・・しかし・・・
私はこの地に留まることをすでに決意していた

(5)へ続く

Kawatombo Ken

閑話休題

伊佐:「Kenさぁ~ん」
川戸:「何だよ」
伊佐:「何だか全然釣りのシーンが出てこないですね・・・」
川戸:「ああ、もう4回目になるのに、俺は1匹、お前は2匹しか釣っていないよな」
伊佐:「何でなんでしょうか、一応『釣り小説』でしょ?」
川戸:「最近釣りに行けないみたいだからな、釣りのシーンすら書きたくないんじゃないか?羨ましくて・・・」
伊佐:「誰が?」
川戸:「誰かが・・・(笑)」


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