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2008年03月28日

幻想・川蜻蛉 第拾話「不幸の毛鉤」

長いこと釣をしていると、時に不思議なことに巡り合う・・・

嫌な奴と言うのは、どこにでも居るものだ!
私の同僚にも一人、極めつけの嫌な奴が居るのだが、奴がどれくらい「嫌な奴」なのか説明する必要があるだろう。
まず、二枚目であること・・・これだけでもかなり嫌な奴だ!!
そして、頭が切れて、機転が利く。当然、仕事も出来る・・・嫌な奴だろ?
そして何より許しがたいことに、優しくて、誠実な上に、謙虚と来ている・・・最悪だ!!!
これだけ説明すれば、いかに嫌な奴なのか分かって貰えると思う。

名前は”M田”・・・一応表面上は学生時代からの親友で釣り仲間、と言うことになっている。
良く一緒に行動しているだけに、何かにつけて比較される・・・たまった物ではない!
辛うじて釣の腕前だけは、私の方が上であることが唯一の救いだった・・・つい最近までは!
幻想・川蜻蛉 第拾話「不幸の毛鉤」

M田は、あんな奴なだけに人に取り入るのがとても上手だ。(それも気に入らない所の一つだが・・・)
おかげで去年辺りから、随分と釣り仲間が増えてきて、「嫌な奴にも、嫌な奴なりに役に立つこともあるんだな♪」なんて思っていたこともあったが、増えた釣仲間の中には相当上手な人もいて、またそういう人に限ってM田は上手に取り入ってしまうのだ!
そして卑劣にもその人と仲良くなって、テクニックを教えてもらって、メキメキ腕を上げてしまった・・・
昨シーズンの後半辺りから、釣果が今までと逆転することも多くなり、このままでは立場が入れ替わる日もそう遠くないだろう

嫌だ!それだけは嫌だ!!何とかしなくては・・・・

私は懇意にしているフライショップ『釣魔栗堂』の店長に相談に行った。
「こんにちは!」
私が店に入ると、怒鳴り声が聞こえてきた
「お前なんかに売るものはない!とっとと帰れ!!」
「スターターキットが欲しいって言っただけじゃないですか」
「だったら上○屋にでも行け!!」
「ああ、そうかい!二度と来ないよ!!」
客らしい男は、怒りながら店を出て行った・・・

「ど、どうも・・・」
「・・・なんだ、またお前か・・・」
相変わらず無愛想だ。
このショップ、路地裏の人通りもあまり無いところにポツンとある上に、店長は極めて無愛想で頑固で偏屈・・・それなのに商売が成り立っているのは、とんでもないほどのマニアックな品揃えにある
私とは変人同士、気が合うようで、釣のこと以外にも何かと相談に乗ってもらっている。
今回のことを話してみると
「そんなもん、練習して上手くなるしかないじゃないか」
「いや、向こうには色々とコーチが付いてるみたいで、一人で練習しても追いつけないんですよ。だから、教えてもらえないかなって・・・」
この店長、頑固なだけでなくFFの腕前も相当のものなのだ。もちろん人に物を教えるような性格ではないことは百も承知なのだが・・・
「断る!!」
「そこを何とか・・・アイツ、上手い人を見ると、ゴマ擦って近づいて、取り入って・・・ズルイ奴なんだよ!」
「・・・まぁ確かに気に入らないな、そういう奴は俺も大嫌いだ!だが、それとこれとは話が別だ・・・帰りな!」
こうなってしまっては、テコでも動かないのは良く知っている・・・ダメか・・・仕方が無い、別の手を考えるしかないだろう。

「あ~あ、呪いでも掛けてやりたいよ・・・」
「ん?それなら、あるぞ」
「えっ、何があるの?」
「使った相手が必ず不幸になる、『不幸の毛鉤』ならある」
「ええぇ!?」
ゴソゴソと棚を探し始めた店長・・・、そんなバカなと突っ込みを入れてやりたいのはヤマヤマだが、冗談を言う人ではないし・・・
「あった、これだ」
クリアケースに入った、一本の毛鉤を机の上に置いた。なんてことは無い、普通のフライだ。まぁ、随分綺麗に巻いてはあるが・・・
幻想・川蜻蛉 第拾話「不幸の毛鉤」
「はぁ・・・?」
「お前・・・信じてないだろ」
「い、いや、そ、そんなことは無いですよ」
「フン・・・まぁ、無理も無い・・・良いか、この箱を持って、店の外に出ろ。」
言われるままに、外に出た私。この人には何か逆らえないオーラのようなものがあるんだよな・・・
「横に這ってある封印のお札を剥がすんだ。 よし札をこっちに寄越せ。」
「別に何も無いですが・・・」
「良いから、この辺りをグルっと廻って来い!その箱、どこかに置いてくるんじゃ無いぞ、取りに行かせるからな!」
・・・しょうがないなぁ、付き合ってやるか。
ため息をつきながらも、私は店長の言う通りにすることにした。

15分後・・・
「ほ、本物ですよ!これ・・・」
店に戻ってきた私は、開口一番店長にそう告げた。
私の姿と言えば、目の周りには青タン、頭には大きなコブ、ズボンの右足はひざ下が千切れ、足首には犬の歯型、ジャケットは左手部分が無くなっている
何があったのかって?とにかく、大変な目にあったんだよ!!
店長は、箱に封印のお札を張ると、私から毛鉤を受け取った。
「だろ?」
「はい・・・だけど、こんな物を一体どうやって手に入れたんですか?」
「秘密だ!これ以上は聞くなよ・・・ほら、奴に渡して不幸にしてやれ!」
「え!?でも・・・」
「大丈夫だ!効力は弱めに作ってある、大怪我や、まして死ぬことなど無いから安心しろ」
作ってあるって・・・まさか!?
いや、とにかくこれで、M田の奴に一泡吹かせてやれる!!
「ありがとうございます!!」
頭を下げて、店を出ようとすると
「まぁ、待て!お札以外にもう一枚、小さな紙が張ってあるだろ?」
確かに張ってあった・・・・¥10,500(税込)
「毎度有りぃ!!」
「・・・・・・・・・・」


数日後、私はM田と一緒に、秘蔵のポイントへと向かった。
本当はM田をココには連れて来たくなかったのだが、誘い出すためだ、仕方があるまい。
幻想・川蜻蛉 第拾話「不幸の毛鉤」
「まさか、最大のマル秘ポイントに連れて来てもらえるとは思わなかったよ!」
「あぁ、ほら例のプロジェクト、M田が主任になるって話だろ?そのお祝いだよ!!」
「いや・・・でも、俺が選ばれたって事はさ・・・」
「何言ってんだよ!正々堂々実力の勝負で敗れたんだ、M田に負けたのなら悔いは無いよ♪」
「・・・ありがとう・・・そう言ってもらえるなんて」
M田は感動して涙ぐんでいる・・・バカめ!

私は後ろ手で、こっそり例のフライ入りの箱を取り出して、そーっとお札を剥がし・・・
「あ、忘れる所だった!ほらこれ、プレゼント。大した物じゃないけどさ♪」
「なんだい?」
「ほら、『釣魔栗堂』ってあるじゃないか?あそこの店長が巻いてくれた爆釣確実の必殺フライだよ!」
「へーっ!ありがとう、流石に綺麗に巻いてあるね♪」
「はい、持ってけよ。」
「ああ、でも箱がかさばるから帰りに受け取るよ♪あっ!今、ライズした、先に行くぞ!!」
「ええ!?ちょ、ちょっと待・・・」
M田は川原へ下りていってしまった。

そう!、お札を剥がした時から効力が発揮されてしまったのだ!
すなわち『不幸にも』受け取ってもらえなかったのだ・・・なんてこった!
だが、まだチャンスはある。取り敢えずお札を元に戻さなければ!
隠しておいたお札を取り出し、箱に張ろうとした時・・・
『不幸にも』突風が吹き、お札はどこかに飛んでいってしまった!!
「しまったぁぁぁ!!!!」

・・・・
・・・・
・・・・
それから何が起こったのかは、語りたくないので省略するが、ボロボロだ・・・
何が何でもM田に、この毛鉤を渡すんだと言う執念が、私をまだこの場に立たせていると言っても過言ではないだろう。
見よ、この努力と根性!!私は人を貶めるためであれば、どんな苦労も厭わない、そういう男なんだ。

釣果は、どういう訳だか、私は絶好調でM田は絶不調。
第二と第四ガイドの取れてしまったロッドと(折れてないのは奇跡だろう)、ドラグとハンドルの壊れたリールと、半分に減ったフライライン・・・それでも釣れる。
「さすがだね、まだ上流部に来ると敵わないよ・・・でもさ、大丈夫か?」
私の姿を見て、心配してくれているようだが、ここで情にほだされる訳にはいかない!
「あぁ、全然平気だよ!そっちこそ、今日は調子悪いね・・・」
「うん・・・こんなことなら、例の爆釣確実のフライ、持って来れば良かったよ」
キタァァァアアア!!!!!
「実は・・・ほら!」
「あれ?持ってきてたんだ!使っても良いの?」(良し、いい子だ、食いつけ!)
「あげたんだから、当たり前だろ。」(さぁ来い、さぁ来い)
「でも、なんか勿体無いよな。」(う~ん・・食わないぃぃ・・・・)
「何言ってんだよ、使ってこそのフライだろ?」(ほらほら、食えって!)
「そうだな、一匹だけでも何とか釣りたいしな♪」(よし、バイト!!)
苦労の末に、とうとうM田に『不幸の毛鉤』を渡すことに成功した・・・努力が報われる瞬間だ、長かったぁ(涙)

M田は、私の策に陥れられたことににも気付かずに、ティペットの先に『不幸の毛鉤』を結んでいる。
その先のプールのライズを狙うようだ。
フッフッフ・・・、『不幸の毛鉤』の力、思い知るがいい!!
フォルスキャストを始めるM田、奴が不幸になる瞬間、これを見届けてやる♪
「ああぁぁ!しまった!!」
ついに始まったか!?これで貴様も終りだぁぁぁああ!!!

「あ~あ・・・・すまない・・・・フライ、木の枝に引っ掛けてなくしちゃったよ」
「えっ!?」
M田は『不幸にも』、爆釣確実のフライを一回も水面に落とすことなく無くしてしまったのだ・・・

・・・・
・・・・
・・・・



おしまい


今回登場した「釣魔栗堂」の店長、彼にはまだまだ謎がありそうですが・・・
その話は、また次の機会にでも(笑)

Kawatombo Ken


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この記事へのコメント
次回予告!
山の奥深くに、ひっそりとその泉はあった。
美しくどこまでも清らかな水を湛えるその泉には、深く大きな謎があった・・・
Ken&TOMOが、今その謎に挑む!!!

幻想・川蜻蛉 第拾弐話「金色のKen」
・・・何かが起きる!
Posted by Kawatombo KenKawatombo Ken at 2008年03月28日 20:55
オチが途中で解ってしまった・・・
すんまそん
Posted by 順坊 at 2008年03月28日 22:38
順坊さん、こんばんは!
まぁ、推理小説じゃないんで、途中でオチが解っても問題ないんでしょうが・・・
なんか悔しいですね(;^^A
次回作に期待してください!!

明日の前夜祭楽しみですね♪
宜しくお願いします(^^)b
そうそう、私が巻いたフライを1本、プレゼントしましょう・・・ヒッヒッヒ(笑)
Posted by Kawatombo KenKawatombo Ken at 2008年03月28日 22:51
こんにちは、

のび太の問題とドラえもんの何でもポケットのパターンのようなシリーズの予感…。

「釣魔栗堂」の店長、他にも色んな不思議な釣具を出してくれそう。

楽しみです。
Posted by jbopper at 2008年03月29日 16:56
おばんでこるとです。 興味深いですね。 読み返しました。
こういうのが次々と書けるkenさんって .. 脳ミソが柔らかいんでしょうね。
次回も楽しみです。 
Posted by こるとれーんtoneこるとれーんtone at 2008年03月29日 20:43
こんばんは

主人公の「私」不幸すぎる~
でもなんか親近感を覚える僕って・・・

次回作も楽しみにしております
Posted by エビフライ番長 at 2008年03月30日 22:20
こんにちは。
嫌な奴のM田さんは幸運の持ち主でもあった訳ですね(笑)。
『釣魔栗堂』の店長のこと・・もっと知りたいなぁ。
Posted by ken@フライマンの詩 at 2008年03月31日 13:31
ネット完成のうえに物語までUPとは・・・
余裕ですね~(笑)
「釣魔栗堂」はネーミングがグーですね!
それにしても、嫌なヤツは悪運も強いんですね~(笑)
次回の作品も楽しみにしてますよ~!
Posted by tobitani at 2008年03月31日 15:30
jbopperさん、こんばんは!
少々ブラックなドラえもんですよね(笑)
全然解決しないのがポイントです・・・(;^^A

釣魔栗堂の店主は、某釣具屋さんの店長がモデルだったり、違ったりします(笑)
Posted by Kawatombo KenKawatombo Ken at 2008年03月31日 21:59
こるとさん、こんばんは!
他にも何本か書いた作品があるんで、おヒマな時にでも読んでみてくださいね(^^)b

脳ミソが、柔らかいというより・・・グニャグニャです(笑)
Posted by Kawatombo KenKawatombo Ken at 2008年03月31日 22:02
エビフライ番長さん、こんばんは!
いやいや、この主人公のモデルは私でして・・・(;^^A
「M田」さんも、実は高校時代の釣り仲間がモデルだったりして(笑)

店長は、この後もきっと登場させますよ!
Posted by Kawatombo KenKawatombo Ken at 2008年03月31日 22:10
kenさん、どうもです!!
M田さんは、実は本当に良い奴なんですよ!
私は嫌いですが・・・(笑)

釣魔栗堂の店長は、黒魔術と陰陽道とFFに精通した謎の人です・・・
これ以上はまだ秘密、って言うか考えてません(笑)
Posted by Kawatombo KenKawatombo Ken at 2008年03月31日 22:13
tobitaniさん、こんばんは!
小説の執筆は、もっぱら仕○中です(笑)

悪運と言うか、M田さんは実は全然悪くないんで、単なる幸運かと・・・(;^^A
次回作でも、この二人の対立は続きますよ!!
Posted by Kawatombo KenKawatombo Ken at 2008年03月31日 22:16
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